2.春処理

目次

1)春耕起のポイント

(1)その1 秋処理の仕上げ
(2)その2 代かきにつなげる

2)春の有機物施用の是非

(1)粗大有機物(稲ワラ、堆肥)の施用は不可
(2)易分解性有機物の施用について ~自然農法は土で育てる~

3)まとめ

コラム7
肥料観念 ~雑草と食味との関わり~

この項では、春における①耕起のポイントと②有機物施用の是非について述べていきます。

1)春耕起のポイント

(1)その1 秋処理の仕上げ

一般的に春耕起は田植えまでに1~3回程度行いますが、ポイントは、秋から始まった「稲ワラの腐熟化促進」と「トロトロ層の形成(への布石)」を引き継いでいく明確なイメージ(目的意識)を持つことが大切です。仕上げていく感覚です。

耕起を行うタイミング(時期)は、特に温暖な地域では、春の畑雑草の発生・生長によるところが大きく、春雑草が大きくなり過ぎないうちにすき込んでしまう必要があります。ここで大切なことは、単なる春雑草の処理ではなく、‘稲ワラの腐熟化,を進めると同時に、前年由来の稲ワラ等に新たな新鮮有機物(春雑草)を加える形で‘トロトロ層の形成,に連動させていくという明確な目的意識を持って作業に入るということです。春雑草の発生が少ない地域でも理屈は同じです。

耕起に入るタイミングは、最も土が乾燥した時です。

(2)その2 代かきにつなげる

春耕起のもうひとつのポイントは、最後(代かき前)の耕起は、入水・代かきにつながっているということです。ひとつ例を挙げますと、特に、田面土壌が大きな塊でゴロゴロしているような場合、最後の耕起時に、土壌表層をある程度細かく均一化しておくと代かきが思い通りにスムーズに進みます(元々細かく均一化しやすい圃場ではその必要はありません。耕起から入水・代かきまでの期間が長くなる場合も表層土を細かく砕土し過ぎると問題が生じる場合があります)。

また水持ちの悪い圃場では、畦周りからの漏水を少なくする目的で、畦周り(トラクター1周分)を特に細かく砕土しておくという方法もあります(写真12・写真13)。

 

写真12(左) 冬、高台に上ると、田んぼの外側から土壌が乾いていく様子が観察できた。圃場の日減水深が大きく(農家談)、ホタルイが多いことから、畦際からの漏水には注意が必要であると推測された。(2004年12月、岡山県勝田町)
写真13(右) 畦際からの漏水が懸念される田んぼでは、畦周り(トラクター1周分)を細かく砕土しておくという方法もある。代かき時によく練られ、漏水を多少なりとも防げる。(2004年4月、広島県上下町)

見えない部分では、耕盤層(作土直下層)が凸凹にならないように慌てず丁寧に行う必要があります(耕盤層の均平化)。いずれにせよ、春の耕起は、次の入水・代かきにつながっているものであり、次の栽培につながりを持たせて連動させていくという意識が必要です。

2)春の有機物施用の是非

(1)稲ワラの施用・すき込みについて

土中に未熟な稲ワラが残存していると、各種弊害の元になるため、「稲ワラの腐熟化促進」は秋処理の重要命題のひとつであることは既に述べた通りです。

また稲ワラの施用について「土壌的には、グライ土壌や泥炭土壌のような湿田土壌あるいは寒冷地や早期栽培のようにいねわらの分解が抑制されるような条件ではその施用には慎重な配慮が必要であり、分解を促進するような施用時期の選定や対策的処理がなされねばならない。」(前掲書:農林水産技術会議事務局、1968)ことについても既に述べました。

すなわち、特に土壌水分が高く稲ワラの分解促進が十分に期待できない場合や、寒冷地や早期栽培のように田植えまでに稲ワラの分解に必要な積算温度が十分に確保できない場合などは、春の稲ワラのすき込みには十分注意する必要があります。

秋処理の項で述べた“稲ワラの風化”にどう結びつけていくのか、つまり天候の様子を見ながら最終的な稲ワラのすき込みをいつにするのか(秋か、春か)の判断は、年により、地域により、田んぼにより、大きく違ってくる可能性があります。

ちなみに堆肥等の未熟有機物の施用は、各種弊害を引き起こす率を飛躍的に高めることは経験的に見ても明らかです。それなら、「易分解性有機物を土中で十分に分解させれば問題がないのではないか」「長期に発酵熟成させたボカシなら良いのではないか」といった声が聞こえてきそうです。

(2)易分解性有機物の施用について
~自然農法は土で育てる~

易分解性有機物(ボカシ等)は土壌微生物によって速やかに分解されるため(窒素の無機化)、春に多く施用すると、肥料的要素が強くなり、養分として良く効いてきます。つまり施用効果はてきめんです。これは一方で、各種弊害を引き起こす要因を含んでいることを意味します。すなわち、稲が窒素を過剰吸収して過繁茂やイモチにつながるケースもありますが、むしろ急速に無機化された窒素を稲に先行する形で雑草が吸収してしまい、雑草が多発してしまうケースが見られるのです。

秋施用にせよ、春施用にせよ有機物の大切なポイントは、肥料効果を出させてはいけない、肥料と見なしてはいけない、つまりあくまで土壌生物のエサであり、土壌生物が取り込んで消化できる、余剰にならない量の施用です。

こんな試験報告があります。「水田1㎡に、窒素にして0、5、10、20gに相当する市販の生ごみボカシを施用し、水稲を無除草で栽培しました。移植から80日目の水稲と雑草の地上部乾物重を図(4)に示します。施用量が増えるにつれて水稲の乾物重は減少しましたが、雑草の乾物重は逆に増加しました。有機物の施用量が多すぎると、水稲が利用できなかった養分を雑草が吸収してしまい、雑草害が助長されると推測されます。」(加藤茂「有機物の施用量と水田雑草」より:自然農法センター発行「自然農法vol59・研究報告2007」に所収)

図4 水稲と雑草の地上部乾物重(移植から80日目)(加藤茂「有機物の施用量と水田雑草」より)

図4 水稲と雑草の地上部乾物重(移植から80日目)(加藤茂「有機物の施用量と水田雑草」より)

ここでお伝えしたい重要な視点は、自然農法は‘土で育てる,ということです。自然農法は肥料で作物を育てるのではなく‘土の力を発揮させる,ことに主眼を置いています。

すなわち、有機物の施用は、この原則(観点)に基づいているということです。ゆえに、春に稲ワラ等の有機物を施用(すき込み)する場合は、立脚点を正しく取り、本来目指すべき栽培から逸脱することがないように注意する必要があります。

3)まとめ

春耕起は、秋から始まった「稲ワラの腐熟化促進」と「トロトロ層の形成」へのイメージを引き継いでいきます。そして最後(代かき前)の耕起は、次の入水・代かきにつながっているものです。

単なる春雑草の処理に終始するのではなく、土中の稲ワラ(の分解)に思いを馳せると同時に、春雑草(新鮮有機物)を基質(エサ)に、‘微生物の活性化,‘トロトロ層の形成,に連動させていく明確な目的意識(イメージ)を持って作業に入ることが大切です。繰り返しますが、一見同じ作業に見えても、‘イメージ,を持つか持たないかの差は想像以上に大きいものです。こうした「稲ワラの腐熟化促進」や「トロトロ層の形成」に連動したイメージを持つことで耕起深度、耕起時期などが明確になってきます。何故この深度、この時期なのか、その理由が自分自身で明らかに説明がつきます。つまり‘急所,をつかむことになります。

コラム7

肥料観念 ~雑草と食味との関わり~
(※ここで言う肥料は化学肥料ではなく主に有機質肥料を指します)
‘肥料観念,はほとんどの農家が持っている。農学を真剣に学んだ研究者もほとんど持っている。作物はNPKを始めとした各種養分(肥料)を吸収して育つと考えられている。だから肥料をやる。例えば、春に何かしらの肥料(有機質)を施さないと稲が育たないと考えている農家は意外と多い。しかし実際は何も施さなくても稲は育つ。
その‘真偽,はともかく、興味深いのは、‘肥料観念,が強いほど、雑草の発生が多いか、または食味を落とすという事実である。体験的に少なくとも私はそう考えている。肥料で稲を育てようとすると稲より雑草や病害虫のほうが敏感に反応する。雑草や病害虫が反応しない場合は土の緩衝能力が高いからと言えるが、もし反応した雑草をきれいに除草してしまうと食味が落ちる時がある。雑草は土からあふれ出した余剰養分を吸収(浄化)するからだ。
栽培方法、田んぼの様子、食味、は連動している。食味は面白い。例え同じコシヒカリでも田んぼや栽培方法などによって味はまるで異なる。食味(玄米)に含まれる情報量は極めて多い。同じく雑草が発する情報量も多い。先に述べたように‘肥料観念,で何かしらの有機物を投入した場合、その多くの場合、雑草が多発するか、食味に微妙な違和感が出る。味は人それぞれに好みがあるので何とも言えないところがあるが、雑草対策と食味向上のコツは、‘肥料観念を捨て、土の味を醸し出す栽培にある,と感じている。
農家として独立し、改めてしみじみと、自然の力で、土の力で、そして種の力で稲(作物)を育てることの大切さを実感しています。